2008/02/26

「美しすぎる母」

試写会に招いていただき、「美しすぎる母」を観てきました。

 この映画はトム・ケイリン監督が、息子による母親殺害という実際に起こったセンセーショナルな事件を元に映画化したもの。主演は「めぐりあう時間たち」や「エデンより彼方に」でもおなじみのジュリアン・ムーア。
 昨年のカンヌ映画祭で上映された際も、その衝撃的な内容で話題をさらったとのこと。

 ジュリアン・ムーア演じるバーバラは貧しい育ちながらも、大富豪であるブルックスと結婚。二人は息子、アントニーを授かり、バーバラは憧れだった上流階級での華やかな生活を送る。様々な国々を旅し、社交界を渡り歩く日々を過ごすが、ある時ブルックスはバーバラも息子アントニーをも捨て去っていく。
傷ついたバーバラもアントニーも、精神のバランスを失い、二人の心の歯車はどんどん狂っていく・・・。そして衝撃の結末へと向かっていく・・・。

 全体を通して、うっとりするほどの美しい映像。ファッションもしかり。
しかし、それよりも鮮烈に記憶に残ったのは、ジュリアン・ムーアの演技の素晴らしさ、そしてその美しさ。
「美しさ」という言葉だけでは表現し足りませんが、バーバラのその女性としてのあり余るほどの魅力、危うさ、儚さも、複雑で説明しがたい心情も、とても見事に表現していたように思います。

 その衝撃的な内容、きっとこれから公開が近づくにつれ、どんどん話題をふりまいていくことでしょう。
 そのストーリーの感想の続きはまた後日!!
  
photo:(c) Lace Curtain, Monfort Producciones and Celluloid Dreams Production

公式HP 
初夏、Bunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー

評価:★★★★☆

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2008/02/24

「窯焚」-KAMATAKI-

 ヒジョーに渋くてカッコイイ俳優・藤竜也さん主演の「窯焚」を観てきました。
しかも舞台挨拶付き!

 この映画はカナダの監督、クロード・ガニオン監督が日本を舞台に日本の伝統文化である陶芸、かつ今では数少なくなった日本古来の陶器を焼く過程「窯焚」を題材にした異色の作品。
モントリオール世界映画祭で最優秀監督賞、観客賞など史上初の5冠に輝いた映画なのです!

 日系カナダ人青年のケンは父の死によって、人生そのものに意欲を失い、自殺未遂までしてしまった。母親のはからいで叔父である著名な陶芸家・琢磨の元でしばらく過ごす事に。
 信楽の町で琢磨の奔放さや人間としての魅力に触れながら、次第に心を開いていく。そして「窯焚」に挑むケンの心にはそれまでには無い感情が芽生えていく・・・。

 この映画の中で行われる「穴窯」という窯を使っての窯焚という行程は今はその過酷さから随分少なくなってしまったとのこと。日本特有の文化でもあり、古代技術の最高峰とも言われるそうです。
 約10日に渡って、昼夜寝ずに約7分おきに薪をくべ、穴釜を1300度以上の高温に保つ事も要求されます。人工的なうわぐすりを使わずに焼くその手法によって、独特の風合いや美しさを見せるとのこと。
 実際、映画の中で映し出される作品の一つ一つも吸い寄せられるほどに素晴らしく美しいものでした。

 陶芸家・琢磨を演じる藤竜也さんは実は陶芸が趣味で10年以上もやってきたとのこと。また驚くべき事に実はガニオン監督はそれを知らずに藤竜也さんにこの役をオファーをしたそうなんです。(びっくり!かつなんだか運命的!)

 クロード・ガニオン監督は約1年に渡り、舞台になった信楽に住み、世界的陶芸家・神崎紫峰さんの穴窯で、実際に約10日に渡る窯焚の作業に参加。その窯焚の行程はもちろん、その前の窯入れから、窯開きなど一連の作業、また信楽の町など様々な事を勉強したようです。
並々ならぬその情熱がスクリーンを通して伝わりました。
また映画で見られる美しい陶器のほとんどは神崎さんの作品とのこと。

 「穴窯」という普段見る事のできない窯で陶器を焼くその行程を、物語を通して見られたことも非常に貴重な経験で、とても興味深いものでした。

 周囲のあるがままを受け入れる琢磨の自然体な生き方、窯焚の炎、ケンの心の中を駆ける様々な変化を観ていく中で、浄化されるような穏やかな気持ちと炎に象徴される激しい熱、相反するような二つの気持ちが自分自身にもやって来る・・・そんな何とも言えない独特の魅力に溢れた映画でした。

 映画の中で琢磨が「杯を空にしなさい」と語るシーンは、いつまでも心に残るシーンでした。


公式HP  新宿バルト9で2/23より公開。全国で順次ロードショー。


評価:★★★★☆

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「潜水服は蝶の夢を見る」

 また一つ、素晴らしい映画に出会いました。
「バスキア」や「夜になるまえに」を手がけたジュリアン・シュナーベル監督の監督作、「潜水服は蝶の夢を見る」です。

 「潜水服は蝶の夢を見る」
 このタイトルを初めて見た時、その何とも不思議なタイトルに興味が湧きました。
 気になりませんか?このタイトル。その意とすることはどんなことか? 
それを知りたい衝動にかられました。
 映画を観終えてみると、主人公の状況・心境がすごく良く表現されている言葉だとしみじみ感激したのでした。
 
 この映画は実在した人物がモデル。彼が自ら記した奇跡のようなお話を元に作られました。
 フランスのELLE誌編集長をしていたジャン=ドミニク・ボビーは、43歳という若さで脳梗塞で倒れ、第一線で活躍していた日々が一変、唯一左眼の瞼しか動かない身体に。
 彼がしばらくの昏睡状態から目を覚ましても自分の言葉が周りに通じない。それだけでなく、体も全く動かないという耐え難い現実をつきつけられます。

 彼が彼の外界とコミュニケーションするために言語聴覚士が考え出した素晴らしい方法はアルファベットを一字ずつ読み上げ、それを彼がまばたきで合図するというもの。
 そして恐ろしく気が遠くなるほどの行程を経て彼は一冊の自伝本を書くのです。根気強く彼のまばたきの合図を書き取った女性クロードの協力を得て。

 映画の序盤、ジャン=ドミニク・ボビーがいかに悲しみ深く、いかにもどかしいかをとても巧みに観る人に感じさせます。カメラは主人公の「眼」の代わりになり、そこから見える人々や光景を映し出し、観客である私達を疑似体験的な感覚にさせてくれるのです。  
 
 彼の発した言葉で、とても眩しく、目の前がさーっと開けたような光をくれたこと、それは、
 「記憶と想像力が無限である」ということ。「それによってどこまでも旅が出来る」ということ。

 映画を評する言葉として「希望を与えてくれる」という言葉は使い古されているかもしれませんが、
この映画は、そしてジャン=ドミニク・ボビーの生き様は、
人間そのものがどれだけの希望を秘めたものなのかを、これでもかと見せつけてくれました。光を、希望を、くれました。
 自分にとってもこの映画との出会いはとても意義のある数時間であり、多くの人にとっても意義のある出会いになると確信できました。

 また、最後に知らされる運命的な事実は鳥肌が立つほど感動的!
 まだ観ていない人はぜひ!

2008年2月9日よりシネマライズ、新宿バルト9ほか全国にて公開
photo: ©Pathe Renn Production-France 3


評価:★★★★☆


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2008/02/14

「デカローグ」

 監督はもう既に96年に亡くなられていますが、「トリコロール」三部作や「ふたりのベロニカ」の監督でも知られるポーランドの巨匠、クシシュトフ・キェシロフスキ監督の作品。彼を尊敬する名匠監督も多いと言われています。
 デカローグは約1時間のお話が10話あるオムニバス。元はテレビシリーズだったんですが、各国で劇場公開され、カンヌの審査員特別賞やヨーロッパ映画祭のグランプリなども受賞した作品です。

 「時計じかけのオレンジ」などでも有名なスタンリー・キューブリック監督が「デカローグ」をこう評しています。

「この20年で1本だけ好きな映画を選ぶとすれば、間違いなく『デカローグ』である。」
 キューブリック監督がそこまで言っていると聞くと、映画ファンの方は気になりませんか???

 
十戒をモチーフにした、10のエピソード。全てのお話に「ある○○○に関する物語」というタイトルがついています。
全てのタイトルは以下。

第1話:ある運命に関する物語
第2話:ある選択に関する物語
第3話:あるクリスマス・イブに関する物語
第4話:ある父と娘に関する物語
第5話:ある殺人に関する物語
第6話:ある愛に関する物語
第7話:ある告白に関する物語
第8話:ある過去に関する物語
第9話:ある孤独に関する物語
第10話:ある希望に関する物語

 まだ全てのお話を観ていないうちにコラムを書くのもどうかと思ったけれど、好きな映画の中でもある種の「特別感」を感じるこの映画、ぜひ知って欲しいので紹介しました。
 
 ふとした時間の流れや会話の先に何が待っているのかという絶妙な緊迫感と素晴らしい心理描写と演出。さすがです。
非常に深みのある作品ばかり。理屈抜きに引き込まれます。


 いくつか観たうちで印象的だったのは第4話「ある父と娘に関する物語」
非常に仲よく暮らす父と娘。亡くなった母親が残した1通の手紙をきっかけに、穏やかな日常を過ごしていた2人の間に大きな感情のうねりが生じます。

 今回は序章といった感じでこの辺りまで。
 また後日、コラムの続きを・・・。


最後にキェシロフスキ監督が残した言葉で、興味を引く印象的な言葉を紹介。

身を切るような孤独を知っている者だけが、人生の美しさを真に享受することができる


評価:★★★★☆


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2008/02/10

「アース」

 今まさに大ヒットで公開中、すごく楽しみにしていた「アース」をようやく見てきました。
 なんて素晴らしい映画でしょう!!
 こんな映画が完成したこと自体、奇跡と言えるんじゃないでしょうか。
 「地球」というとてつもない奇跡の塊を、こんなにもまざまざと見せてもらえたことに、もうただただ感謝するばかり、制作にたずさわった方々に敬意の念でいっぱいになりました。
 生きているうちに絶対に目にすることもできない自然や生き物達の現実、その光景の連続なのですから。

 大ヒットした海洋ドキュメンタリーの「ディープ・ブルー」と超人気TV番組「プラネットアース」のスタッフが結集。制作年数5年、撮影日数も4500日、撮影地も世界の200箇所以上・・・
 映画を観ていても、気が遠くなるほどのその撮影や制作の壮絶さ、その過程にはスタッフの様々な困難があっただろうと思いを馳せずにはいられません。

 そこには地球の紛れもない真実があって、ただただ圧倒され、感動と驚きの連続です!
 ホッキョクグマの愛らしい親子の目覚めに始まり、300万頭もののトナカイの群れやトナカイの子供を狙い追いかける狼、ゾウの群れの長く過酷な行進、ライオンとの危機迫る戦い、信じられない光景、ザトウクジラの親子の貴重な映像・・・。
 野生の動物の習性に驚き、食うか食われるかの動物達の過酷な現実を目の当たりにしては驚き・・・。
それからホッキョクグマの子供も、オシドリの雛達の初飛行の姿も、かわいくてたまりませんでした!

 また、ザトウクジラ親子を撮影したカメラマンのコメントによると、ザトウクジラの母親になんと2mという近さまで近づき撮影できたとのこと。そして、そばへ寄ってもリラックスをしていて、これは信頼関係を築けた証だと。
この撮影も自分の身の危険にさらされながらの撮影だったのですから。

 「アース」は「地球」の今をこれほどまでも伝えてくれ、私達がこらから地球を守るためにすべきことを問いかけます。
 これはもう、「観てほしい」というより「観るべき!」と声を大にして言いたい壮大な壮大な映画です!

(C) BBC WORLDWIDE 2007

公式HP


評価:★★★★★

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2008/02/05

「パリ、テキサス」

 大好きな映画の中の一つ、「パリ、テキサス」。
 ヴィム・ヴェンダース監督が世に送り出した名作の一つとしても有名です。
 カンヌ映画祭でもパルムドールを受賞。公開から20年以上たった今でも、色あせません。
 様々な要素が入りながら、それらが完璧に組み立てられ、素晴らしく完成度の高いドラマじゃないでしょうか。

 主人公のトラヴィスは4年前に家族の前から姿を消し、荒野を放浪している。ほとんど言葉を発しない、廃人のような状態でいるところを、弟が迎えに来た。
 最初はコミュニケーションもままならない状態だったのだが、弟の元で一緒に暮らし始めるうちに、徐々に人間らしさが戻ってくる。 
 再会時、「親」という認識を持てていなかった幼い息子との距離も次第に縮まっていき、2人は失踪した妻を探しに行く旅に出ることにするが・・・。

 登場人物それぞれが持つ様々な『愛』の形を感じる事ができます。
 兄弟の愛。親子の愛。時間が積み重ねた愛。男と女の愛。自己愛・・・。 
 愛の形も強さもそれぞれで、それを観ている私達は時に温められ、時には痛々しく思い、時にはどうしようもなく切なてたまらなくなるのです。

 何度も観たいシーンはたくさんありますが、好きなシーンをいくつか紹介。
 昔の映像を見て涙を流すトラヴィス、そしてそれを見て何かを感じとる息子の姿。
 通りを挟んで、トラヴィスと息子が同じ様に歩くシーンのとても微笑ましいこと、
そして、
 後半から終盤にかけての一連のやりとり・・・(状況を書きたいですが、観ていない方の為にあえて我慢!)は涙が止まりません。それぞれの関係性、過去と現在とあふれ出す感情、それらが一気に繋がっていくかのように、鳥肌が立つほどに素晴らしいのです。

 観ていない方は、ぜひぜひ、観てください。
 最高の一作です。


評価:★★★★★

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2008/02/03

「SWEET SIXTEEN」

 心にぐさっと刺さった映画の中の一つ。
 私の好きなケン・ローチ監督の監督作で、2002年に公開。脚本はケン・ローチ監督の映画で何度もコンビを組んでいるポール・ラヴァティ。

 主人公のリアムは、恋人の罪を被って刑務所で服役している母親の出所を心待ちにしている15歳の少年。 リアムの望みは母親と姉達と家族団らんで暮らすこと。ただそれだけ。 丘の上の海を見下ろせる家を見つけ、その家を買うために母親の恋人が持っていたドラッグを盗んで売りさばき、次第にドラッグの売人として出世していくのだが・・・。

 ただただ純粋に母や姉達とのささやかな日常、ささやかな幸せを願うリアム。
そして、その未来を固く信じている姿、純粋すぎるリアムを見せつけられるほどに、リアムの前にやってくるあまりにやり切れない状況が、痛くて痛くて心が締め付けられます。

救いなんて何一つないんじゃないかと途方にくれてしまう中で、本当にごく僅かながらも、希望があるんじゃないかと思うラストシーン、、忘れられないワンシーンです。

ぜひ、観てほしい映画の一つです。


評価:★★★★☆


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