2008/01/31

「コーヒー&シガレッツ」

  ジム・ジャームッシュ監督の11話のショートストーリー詰め合わせの映画でしたが、なかなかようございました!
 「肩肘はらないで、見に来てよっ」的な遊び心が感じられるクスクスっと笑うお話達の数々。

 フレンドリーを装いながら、内心とっても気まずかったり、ドキドキしていたり、お互い探り合ってたり。ジャームッシュ監督の「ナイト・オン・ザ・プラネット」でも堪能した「会話」のみの映画。
 コーヒーをすすり、タバコを吸い、「究極のリラックスムービー」というコピーも頷ける、まさに一服ムービーとでもいいますか。
 
 それぞれの話の2人もしくは3人の距離感と会話との関係性を考えながら観たりするのが、リアルの世界で人間観察してるようで、面白い感覚でした。
 なにげなない雰囲気や時間を作り上げるのがやはり上手いなあ・・・とジャームッシュ監督には感心します。  

 登場するキャストは本当に豪華なんですが、トム・ウェイツとイギー・ポップが語るお話や、ケイトブランシェットがいとこ同士の役で一人二役を演じるお話・・などなど、嬉しい「遊び心」が詰まってました!

 主題歌「LuiLui」が映画を見た翌日、翌々日・・・としばらく頭の中をリピートしまくり、、でしたよ。

評価:★★★☆☆

2008/01/29

「やさしくキスをして」

 私の好きなイギリスのケン・ローチ監督の監督作、ケン・ローチ監督には珍しく恋愛映画です。
そして、脚本は同監督の「sweet sixteen」と同じ、ポール・ラバティ。
 
 パキスタン移民2世の男性(カシム)とカソリックの高校で先生をしているアイルランド人女性(ロシーン)のラブストーリー。
 カシムの父親は厳格なイスラム教徒で、カシムに対して、イスラム教徒以外の女性との結婚は許しません。カシムは家族を失うことになるのか、彼女を失うことになるのか、苦しい選択に悩まされるのです。
 
 家族が共にいる事を非常に重視している父親。父親に限らず、家族みながお互いを思う気持ちの強さがとても伝わりました。
 ただ、カシムとロシーンの二人の恋愛においては、内面や葛藤の描き方が少し物足りなかった気がします。いろいろなエピソードを詰め込みすぎてしまって薄らいだような・・・。
 
 ケン・ローチ監督は、この映画の次作でケン・ローチ監督の他、アッバス・キアロスタミ監督(カンヌでグランプリを取った「桜桃の味」の監督です)、エルマンノ・オルミ監督(「木靴の樹」の監督)といった、名匠3人による3話オムニバス映画「明日へのチケット」のうちの1話を監督。
 列車内を舞台に偶然乗り合わせた人達のドラマ。
 この「明日へのチケット」もそれぞれの3話が「さすが!」という映画達で非常に良かったです!!
 ケンローチ監督ファンもそうでない方も、ぜひ!

評価:★★★☆☆

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2008/01/27

「息子のまなざし」

この映画、静か。しかし重厚。
監督はダルデンヌ兄弟。2年前に二人が監督した「ある子供」でカンヌ映画祭でパルムドール大賞とりました。ベルギー・フランス合作。

 主人公のオリヴィエは職業訓練所で更生中の少年たちに木工の仕事を教えている。ある日、その訓練所にフランシスという少年が入所してくる。彼のクラスに入ることになったその少年は、実は、幼い自分の息子を殺した少年だったのだ。
オリヴィエはその事実を少年に伝えることなく、平然を装って教える。 そして少年は何も知らずに徐々にオリヴィエに心を開いていく・・・というようなお話。

映画のラストがすごく良いんです。見終わったあとからも感動がさらにじわじわ効いてくる感じ。
この映画、少年を受け入れられるか、られないか、というテーマではないんですね。きっと。

 主人公のオリヴィエも少年のフランシスもほとんど感情を激しく表に出さない分、こういう状況では人って説明できない感情に陥るんだろうな、と思いました。
こういう風に映画にしたのはかえってリアルさが際立ったようにも感じます。
ドラマティックにしようと思えば、とてつもなくドラマティックになってしまうシチュエーションだけれど、そうしてしまったら見えなくなりそうなものが、逆に際立ったんじゃないかなあと。

以前知人が「油絵よりも水墨画のような美に魅力を感じる」というようなことを言っていたけれど、「この映画ももしかしたら水墨画のような映画だろうか」なんてふと思いました。

監督2人が人間ってものにめちゃめちゃ向き合って、考えに考えて心の奥の気持ちを表そうとしたように感じたし、そして、そんな真摯な姿勢や作り方にも好感をもちました。

それと大きかったのは主人公を演じた俳優・オリヴィエ・グルメの演技。

なんとなく、私の好きな映画、「デカローグ」を思い起こす映画でした。
また見直したくなる映画。

評価:★★★★☆

「ミツバチのささやき」

 この「ミツバチのささやき」、2006年に日比谷シャンテで行われた「BOW30映画祭」での上映映画ラインナップに見事に入っていまして・・幸運にも映画館で見ることができました。  

 監督は
「10ミニッツオールダー(人生のメビウス)」のお話でも書いた、ビクトル・エリセ監督。スペイン出身の監督です。  

 ここ30年位は、約10年に1度のペースでしか、監督作としての映画を発表していません。
 意図的にそうしたのではなく、その間にたくさんの努力をした後で、残念ながら断念せざるを得なかった作品もあったとの事。  
 それだけ公開できた作品達には、きっと思い入れも並々ならぬものがあるでしょう。
私は、前述の映画、「10ミニッツオールダー〈人生のメビウス)」(そうそうたる監督達が集った短編オムニバス映画)で、初めてビクトル・エリセ監督の監督作品に出会いました。      

 そしてこの「ミツバチのささやき」という映画は、 静かで、優しくて懐かしい時間が流れている映画でした。
 
 映画で映し出されるその空間に自分の身を置きたくなる衝動、そんな感覚が何度もやってきました。
 

 小さな頃に素朴に疑問に感じた事、子供ながらのささやかな秘密事、何かを発見した時のドキドキした感覚。
 
 みんながそれぞれに持っている、そんな内に秘めた宝物のような事が集まった、なんとも貴重な時間を見せてもらえたような、そんな特別な映画。
 
 ひとつひとつの光景、映像、少ないながらに語られる言葉。どれも、エリセ監督には天才的な感覚の鋭さがあるんだろう・・と思わせられます。
 

 この映画で感じた良さを言葉にするのがとても難しいのですが、
見終えた後の思いを例えるならば、静かで美しい自然を見て、自然は何も語らないけれど純粋に無条件で感動してしまう、そんな感覚に似ている気がします。  
 
 主人公アナの純粋な気持ちや眼差しを、誠実に誠実に、丁寧に、手のひらで壊れないように優しく包んだまま目の前で見せてくれたような、そんな貴重で温かな映画のように感じました。
   

 そして、伝えずにいられないのは、主人公アナ役のアナ・トレントちゃんのかわいらしさ!!
 これまで私が映画で観た子供達の中で、「ベスト1」と断言します。  
 初めての演技だったようですが、演技とは思えないほど、自然です。
   

 もし観るならば、忙しいさなかではなく、夕暮れ時、なんとなく穏やかな気持ちになりたい時にお薦めの映画です。 


評価:★★★★☆

「マイ ネーム イズ ジョー」

私の好きな監督、巨匠・イギリスのケン・ローチ監督の監督作品でもあります。  

 スコットランドのとある町で暮らす主人公のジョーはアルコール中毒からやっとの思いで断酒でき、失業中ながらもアマチュアのサッカーチームの監督を務め、自分の「これから」を前向きに生きていこうと歩き始めていた。 
 
 そんな時に、甥の家庭問題の相談員のセーラという女性に出会い、二人の間にも恋心が芽生え、少しずつながらジョーの生活は立ち直り始めていた。  
 
 そんな中、甥が巻き込まれてしまったある問題。それを救おうとする心がジョー自身を苦悩させる事へ発展してしまい・・ というようなお話。
 

 ケン・ローチ監督の作品はいつも、夢のようなお話でもなければ、人々に憧れられるような華やかな話でもありません。すぐ隣の家に住むような親近感を感じさせる人達、つつましくも健気に頑張っている人々を照らし出してくれるのです。

 この映画も例にもれず、「ジョー」というとっても温かい愛すべき主人公を描く事を通して、実際に同じ様に苦しみつつも頑張っている人達を応援してくれている気がしてなりません。
 
 そこに心が温められてしまうのです。
 

 「人」に対する愛情がこれほど感じられる監督は稀有だと思うのです。

そこは昔の作品からずっと一環して感じられます。
 

 アル中時代の自己嫌悪にさいなまされる思い出をジョーがセーラに語るシーン。
 
 大事な人を悲しませ、しかし大事な人を救おうとするジョーのどうしようもない心の葛藤。

 そんな苦悩やもがき、切なさを見せられると、心からジョーを応援したくなるのです。
 
 そしてラストにあるほんの僅かなひとすじの希望。
 
 そこがまた、監督の「人」への眼差しの近さ、優しさを感じずにはいられず、心に留まってしまうのかもしれません。
   

 「痛み」を感じつつも「優しさ」を感じられる映画。
 
 そして人が人を支えたい気持ちを信じたくなる映画。
 
 そんな風に思うのです。


評価:★★★★☆

2008/01/23

「ホーリースモーク」

 あの「ピアノレッスン」の監督でもある、ジェーン・カンピオン監督の監督作。
 出演は(タイタニックのヒロイン役の)ケイト・ウィンスレット、(「ピアノレッスン」にも出演した)ハーヴェイ・カイテルです。

 お話はケイト演じる主人公が旅先のインドで新興宗教にのめりこんでしまうことから始まります。どうにかしてその洗脳を解きたいと願う家族達が、彼女をだましてインドから帰国させ、ハーヴェイ・カイテル演じる洗脳を解く専門家に依頼し、彼女を脱教させようとする。
 半ば強引に周囲から隔離した空間で3日間という条件の中、2人が過ごし、向き合う数日間で、思わぬ展開となっていく・・・というようなお話。

 「ピアノレッスン」「ある貴婦人の肖像」 と同監督の前作2作品のクラシックな雰囲気とは、ガラッと変わり、風刺を込めた現代的なストーリー。
 正直、コミカルでもあり、1クセも2クセもあるそのストーリー展開に、頭の中が?マークになる事もあります。とっても「変化球」な映画。
 けれども見終わった時には、なんだか煙に巻かれたような感覚に陥りつつも、ある種真理をついている感もあり、考えさせられてしまいました。なかなか巧みでもあり、不思議な映画でした。

 2人は、その2人だけの空間と時間で、図らずも自分自身の非常に脆い部分を相手に見抜かれ、強く自覚させられる事となってしまいます。それは自分自身を足元から崩されたような、とても衝撃的な事なのだけれど、それを共有したという事実は、数日間ながらも2人に何らかを残さないはずは、ありませんね。やはり。

 あ、そしてこれは書いておかねばなりません。
 この映画で、ハーヴェイ・カイテルの今まで見た事がないような、情けない(?)姿が見られます。
 ちょっと衝撃的です。

 ジェーン・カンピオンという監督は、「人の弱さ、脆さ」を炙り出すように描く事が多い気がします。
 「ピアノ・レッスン」より後、彼女の監督作品で、「すごく良かった!」と思う映画にはまだ出会えていませんが、彼女の監督作品にはつい期待してしまいます。

評価:★★★☆☆

「ボーイズ・ライフ」

 レオナルド・ディカプリオの主演作・出世作。アカデミー賞の主演男優賞に当時最年少で、ノミネートされたんじゃなかったかな、と記憶してます。まさに、ロバート・デニーロがかすんで見えるほど、いい演技をしてました。

 実在の小説家の少年期の実話で、暴力的な、母親のパートナーから逃げ、ついに新たな土地で一から新しい生活を始めた、母と息子のトビー。
 しかし、母親がまた恋に落ち、結婚する事となった相手は、実はとても威圧的で、暴君で、支配的な男だったのだ。 
 そこに行き場のない怒り・反発心を抱えながら、田舎の街を自力で出て行く事を夢見る・・・という様なお話。

 レオナルド・ディカプリオの『目』『表情』、今でも強く脳裏に焼きついています。言葉よりも多くを語り、伝わってくるものがありました。
 多感な時期の様々な感情、それは、義父への何ともいえない憤りや絶望感であったり、将来への希望であったり、その年齢ながらの見栄であったり。

 印象的なラスト、について語りたいけど、見ていない人の為に、、ここは我慢っ。
 憤りだらけの状況に加えて、この年頃だからこその心の葛藤がよく描かれていて、なかなかの良作、と思います!


評価:★★★☆☆

「ヘブン」

 私の好きな映画のひとつ、「デカローグ」の監督でもあり、有名な“トリコロール3部作”の監督でもある、名匠クシシュトフ・キェシロフスキ監督の遺稿となった脚本の映画です。
監督は「ラン・ローラ・ラン」を監督したトム・ティクヴァ監督。(とはいえ、あの軽快な雰囲気はこの映画にはナシ!)
 そして、私の好きな女優ケイト・ブランシェットが主演です。

 この映画、公開当時、“切ない境遇の恋愛”というのを全面に出した宣伝展開。気になりつつも、そのイメージから映画館には行かなかった訳ですが、DVDのパッケージでも「泣かせる恋愛モノ」、そんな印象を与えています。 
 なんとなく、ポスターやパッケージの雰囲気からイメージしてしまった、その映画の内容を・・・いい意味で裏切ってくれ、かなりのギャップがあった作品。
見終わった後、一人思わず拍手をしてしまいました。


 ある犯罪を犯し、刑務所に入った、ケイト演じる主人公。尋問の際に出会った、(日本で言えば)警察側で働く青年は彼女に恋をしてしまい、彼女に助けの手を差し伸べ、二人は逃亡するというストーリー。 

 無駄のない台詞、とても抑えた抑えた演出と独特の空気感。それが故に状況や感情がリアルに感じられ、心に残ります。 カメラワークも印象的。
 そして静かに流れる音楽がまた独特の空気感を醸し出す一因にもなってるんです。
 そして、「やられた!」と感じるのはケイト・ブランシェットの演技!!
 彼女の表情はたとえ言葉が無くても、私達にしっかり語りかけてくれ、心に刺さる!のです。
 映画全体としては、二人の感情の揺れ動きや心の奥底に触れる部分がもう少しあればより良かったかな、と思います。
 
 とはいえ、この映画のラストは、、、本当に秀逸!
 オススメの映画です。

 ※この映画でケイトが披露した坊主頭姿も衝撃的!でもかっこよくて似合ってましたー!

評価:★★★★☆

「フライドグリーントマト」

 もう15年近く前のアメリカ映画。10代後半の頃、「好きな映画は?」と聞かれたら、いくつかあげる中に入っていた映画でした。懐かしく、良く出来た映画だったなあと思い出します。

 主な登場人物は女性4人。2人の女性の現在の話と、過去の物語で構成されています。 
 現在の話はキャシー・ベイツ扮する中年女性が見舞いに訪れた病院でひょんなことでジェシカ・タンディ演ずる老女から知人の昔話を聞く事から始まります。
 その中年女性が聞く過去の話は男勝りで勝気なイージーと穏やかで清楚なルースと言う2人の若い女性の数年のお話でもあり、絆とも言うべき、友情のお話。 
 この二人を演ずる女優もとってもはまり役なのです。。

 この現在と過去の話がとてもちょうどいいバランスで織り込まれてます! 
 そして中年女性のエブリンが、病院に行くたびに老女の話を聞くにつれて、イージーやルース、二人のイキイキした生き方から、エネルギーをもらっていきます。 観ている側も思わず元気とエネルギーがわいてきます。
 そして徐々に、弱気で後ろ向きだった以前のエブリンではなくなっていく様がとても痛快!
 正反対な性格のイージーとルースの関係にも、2人の間に絆ができていく様子にも、イージーの義理人情たっぷりなところにも、愛おしさと安心感を感じてしまいます。

 素直にストーリーで楽しませ、ドッキリさせ、ハラハラさせ、感動させ、郷愁感を感じさせ、人生って面白いって思わせる、ステキなステキな映画。
 かけがえのない存在になっていく様や、絆を築いていく様が描かれている映画は私にとって、どうもり愛おしくなる映画のようです。

評価:★★★★☆

「ピアノレッスン」

 気になる監督の一人、オーストラリアの女性監督、ジェーン・カンピオン監督が脚本、監督をした作品。観たのは18歳か19歳の頃だったでしょうか。随分衝撃を受けました。
カンヌではパルムドールを受賞、アカデミー賞でも主演のホリー・ハンターと助演(娘役)のアンナ・パキンが11歳という若さで受賞しました。
 

「ピアノレッスン」 はあまりに美しい。 全てのシーンが絵画を見てるように美しくて、「完璧」と言いたくなりました。
 

 ある時から話す事が出来なくなってしまった主人公エイダという女性が、ある島の男性の元に嫁いでくる。娘と一緒に、彼女の「命」とも言うべき「ピアノ」を連れて。

嫁いだ先のその男性に心を許す事ができないまま、ある原住民の男性と出会い、彼に仕方なくピアノを教えていく中で、エイダは彼に強く惹かれていく・・・。
 

 自分の感情を声に出して表さない代わりにピアノをひくことで彼女は自分の気持ちを解放しています。とにかく、彼女の内に秘めた強い意思や感情がひしひし伝わってきます。
 
 ラストは衝撃的で、エイダのピアノへの執着との別れが、彼女自身の過去からの解放を素晴らしく象徴していて、「すごい」としか言いようがありません。
 エイダを演じるホリー・ハンターの演技も壮絶。
 

 この映画でのマイケル・ナイマンのピアノのメロディがまたいつまでも耳に残って、素晴らしい
本当にこの「ピアノレッスン」は名作だと思います。

評価:★★★★★

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2008/01/22

「ひかりのまち」

これは大好きな映画の中の1つ。そしてこの映画の音楽を担当してるのは映画音楽界の巨匠、マイケル・ナイマン。 この「ひかりのまち」の音楽は叙情的でとってもいいです!

 「ひかりのまち」は個人的に好きな監督の一人、マイケル・ウィンターボトム監督の1999年の作品。映画館で観終わった後の余韻が素晴らしかったのを今でも覚えています。
 舞台がロンドンなのも、とても懐かしくて愛おしくて「大好き」になってる理由の一つかもしれません。 手持ちカメラで照明もエキストラも使わずに撮った作品。だからこそ、よりリアルなロンドンが少しでも感じてもらえる映画になってると思います。

 主人公ナディアは、ロンドンの中心にあるSOHOのカフェでウェイトレスをし、伝言ダイヤルにメッセージを残して、出会いを求め、いろんな男性と会ったりしている。 そして、夫と別れて息子を育てている姉、出産間近の妹、ロンドンから離れて奔放に過ごしている弟、冷めた空気の流れている両親達。それぞれにとっての日常の数日間に起こった出来事のお話。

 様々なシーンに穏やかに優しく見守る眼差しが感じられて、とてもいい。あえて語ることのない機微な心情を照らし出してくれるこういう映画は私はとても好きです。

 好きなシーンはたくさんありますが、その中でも2つを紹介。
 主人公ナディアがやるせなさと孤独感の中で帰りのバスに乗り、周りのにぎやかさの中で一人静かな涙を流すシーン。彼女の孤独感が伝わってきて、涙を流さずにはいられない。
 
 そしてもう一つは、終盤に何でもないマンションの部屋の灯りを徐々に引いていってたくさんの部屋の灯りを写しているシーン。 
そのシーンが、
「映画で照らし出した人達の日常みたいに、この灯りの奥にいるそれぞれの人々にも小さなドラマが起こっていて、同じ様に素敵な映画になりえる」
というメッセージのような気がして、とても好きなのです。
 
 原題は「WONDERLAND」というのだけど、このタイトルは映画の中の話のとても希望溢れるシーンのキーにもなっている言葉。サブタイトルに使っても良かったんじゃないかなと思う。
「ひかりのまち」という邦題はとてもよく映画をあらわしていて素敵だけど、ね。
 
 映画の温かさも美しさも、なくてはならないマイケル・ナイマンの切なくも希望を感じさせる音楽に絶妙に合っていて、何度も観たくなる、とてもいい映画! 
ラストもいい!

評価:★★★★★

「バグダッドカフェ」

 パーシン・アドロンという監督の西ドイツ映画で20年近く前の作品なんですね。
 今見ても色褪せない。暖色の不思議な世界。
 「映画」にしか出せない空気感、特にこの映画は非日常的な、夢を見ているような世界に、ふわーっと連れて行ってくれました。ストーリーに入り込ませるという訳でないのに。希少な映画だと思いました。静かな衝撃と言うのは矛盾してるかもしれないけれど、そう感じました。他の映画にはない「バグダッドカフェ」だけの世界。
 
 ジャスミンというふくよかな女性が夫との旅行中に喧嘩別れして、砂漠のはずれのモーテル「バグダッドカフェ」にたどりつく。そのカフェの女主人 ブレンダは亭主を追い出したばかりでヒステリック。最初はジャスミンを怪しいものよばわり、勝手な行動に腹を立ててばかりいるけれど、バグダッドカフェにいる人々と共に徐々にその存在に癒され、心がほぐれていくのです。

 ブレンダが亭主を散々怒鳴り散らし、追い出した後に、放心状態の表情で涙を流しているシーンはとても印象的でした。素直になれないだけなんだと、彼女が最初から愛おしく思えてしまいました。そしてジャスミンが徐々に周りに安堵感を感じさせていくその数々のエピソードがまたよくて。
 
 ジャスミンが醸しだす包まれるような母性を感じる雰囲気と映画の空気感が本当によく合っていたと思います。この空気感を演出できたのは凄い事 じゃないでしょうか?本当に。
 そして、なくてはならないジュべッタ・スティールが歌う挿入歌「Calling You」が染みてきます。「映画と音楽がどうしても切り離せない」と思う作品のトップ5には入りますね。
 というか「大好きな映画=音楽も大好き」という方式はやっぱりあてはまっているなあ・・・と改めて実感するのでした。
 ラストのセリフもいいですね。つい「ニコッ」としてしまいました!

評価:★★★★☆

2008/01/21

「ノー・マンズ・ランド」

 戦争をテーマにした映画なのですが、皮肉たっぷりのユーモアを織り交ぜたり、人間臭さが満載で・・・これまでの戦争映画とは一線を画した映画です。 2002年のアカデミー外国語映画賞も受賞。
  
 ボスニアとセルビアの中間地帯の「NO MAN'S LAND」に取り残された、争いあっている両軍の兵士2人の駆け引きに始まり、さらに、ひょんなことからそれ以上の身の危険の緊張感を味わう事になり・・・。次第にお互いに親しみにも似たような感情が沸いてきたり・・しちゃうのです。

 兵士も戦争に巻き込まれた犠牲者の一人であること、マスメディアに対する風刺、、、などなど、戦争があさはかでばかげた事だという事をあえてさらっと伝えてます。
 ダニス・タノヴィッチ監督は実際にボスニア軍に参加していたり、300時間以上もの映像を撮影し、ドキュメンタリーとして発表したり していたそうです。それが故に、戦争が本当に無意味で、くだらないということを、こういう形でわかりやすく映画として表現したかったのかなと思いました。

軽快な流れで進みながらも、ずしりと重いメッセージを伝えてくる、いい映画でした。

評価:★★★☆☆

「ニューシネマパラダイス」

 監督はジョゼッペ・トルナトーレ監督。 大好きな映画です。
 好きな映画は?と聞かれたら、いくつか挙げる中に必ず含まれます。 映画の中の、言うなれば、私の「初恋の人」のよう存在。
 
 エンニオ・モリコーネの音楽と映画のラストシーンはもちろん言うまでもなく最高!です。
 トトが一人、映画館でアルフレードが残したフィルムを見るあのラストシーン、、いいラストシーンには台詞など一切必要なくなりますね。あの編集映像にアルフレードの自分に対する愛をまざまざと見せつけられてしまう。
 自分がトトだったら、もう確実にしばらく席を立てませんね。観終わった後1時間も2時間もそこにいてしまいそうです。
 
 町中のみんながパラダイス座に集い、ワクワクし、泣き、笑い、感情あらわに映画を楽しんでいる姿には、しみじみと嬉しくなります。
 トトとアルフレードが絆を築いていく時間も、あんなに小さいトトが映画の映像技師を目指したいと思う姿にも、無条件で愛おしくなってしまう。
 そして青年になったトトにアルフレードが心を鬼にして恋をやめさせ、「街の外に出ろ、一人前になるまで帰ってくるな」と言い諭すシーン、、痛いほど心に刺さります。

 もし、もしも、この名作をまだ見ていない人がいるなら、「劇場公開版」を先に見るのを薦めます。 完全版には完全版の良さも味わいもあるのですが・・・。
完全版はもちろん監督の意図が反映されている訳ですが、見終わった後に、「知らない方が良かったかな?」と思う部分もあったりして。   

 
 前述した、エンニオ・モリコーネの紡ぎだす音楽は、何年たっても映画同様に色褪せません。
 人の感情のシンプルで愛おしい部分がぎっっしりと詰まっている名作映画です。


評価:★★★★★

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「ナイト・オン・ザ・プラネット」

 L.A.・N.Y.・パリ・ローマ・ヘルシンキ、 5カ国それぞれの国でのタクシー運転手とお客のやりとりのみ。 ジム・ジャームッシュ監督に拍手!の一作。どれも静かな余韻のある〆の巧さが素晴らしいです。それぞれの場所らしいストーリーや人物設定、持ち味が感じられて。
 
 どの話もドライバーと客は生活環境も考え方も違いそうな人達。「こんなタクシーに乗って参ったなー」と思っている客も、「変な客乗せちゃったなー」って運転手も、徐々になんとなく親しみを覚えていくあの感じがいい。 パリとローマはちょっと違いますが・・。

パリのお話では最後まで距離感があり・・・、ローマのお話は運転手のワンマンショー!!(しかしかなり笑えます!エロな運転手!) 
言葉のひとつひとつ、しぐさ、表情にこちらも想像をはりめぐらし、あらすじだけで楽しませる映画じゃないところがまたいいのですね。 五感を刺激する感じ。
そして、ふとした一言に真理が詰まっていたりして。
 
トム・ウェイツの音楽がまた良くて、見終わった後、何だか優しい気持ちになるような、そんな不思議な効果がある映画。

評価:★★★★☆

2008/01/16

「トーク トゥー ハー」

「オール アバウト マイ マザー」と同じく、スペインのペドロ・アルモドバル監督の監督作。登場するのは昏睡状態になってしまった2人の女性と、彼女らをそれぞれの形で愛する2人の男性。
 
 主人公ベニグロは看護師の立場で、
数年も昏睡状態のままの片想いの女性を、女として美しい状態に保ちながら、心も生きているかのように、日々彼女に語りかけます。その姿は一方的で盲目かもしれないけれど、ベニグロにとっては話す事もできなかった彼女だからこそ、この繋がりを実感する時間が愛おしくてたまらない、、そんな想いが伝わってきます。 
一方、事故で昏睡状態に陥ってしまった女性
闘牛士の恋人を持つマルコは、突然の事態に悲嘆するしかなく、途方にくれている・・・。
 
 物語は思わぬ展開になってしまいますが、最後にはかすかな希望があります。
 正直、きれいな話とは言い切れず、観る人によっては嫌悪感をもつ人もいますが、私はこの映画には愛おしい感覚を持ちました。あまりに純粋すぎる主人公ベニグロに。
 そして、孤独を知ってる人の愛は知らない人の愛より強くいられるのかもしれないと思いました。
 
 最初はとっても孤独な人だと思っていたベニグロより、最後にはもう一方のマルコの方が孤独に見えました。
 複雑な思いになりますが、いい映画だと思います。 映像も非常にきれいです。
 


評価:★★★★☆

「10ミニッツオールダー(人生のメビウス)」

 信じられないほど、豪華な顔ぶれの監督達がそれぞれ「10分」の映画を作りました。 
 ジム・ジャームッシュ、ヴィム・ヴェンダース、ビクトル・エリセ、チェ ン・カイコー、アキ・カリウスマキ、スパイク・リー、ヴェルナー・ヘルツォーク!拍手喝采ものの超豪華な面々!!

 製作側はなるべく各監督の好きなように作らせるよう心がけたといい ます。
そんな訳で10分に濃縮されたそれぞれの監督の想いを味わえたとても贅沢な時間でした。例えるなら短編小説というより、詩の様な映画達だった気がします。

 この映画のフライヤーにビクトル・エリセの言葉が掲載されていました。それは、とてもステキなものでした。
 映画が大好きな私の中にその言葉は染み渡って、私を包み込んでくれました。
 「一生映画を愛していきます!」 結婚式の誓いの言葉の様な台詞を映画に捧げたくなりました。 
 
全文を記します。

 私が製作しました作品は、「ライフライン」というタイトルがついております。これはもちろん美しいタイトルではありますが、スペイン語の原題「Alumbramiento」(アルンブラミエント)が持つ意味を伝えることはできません。
 「Alumbramiento」という言葉は同時に二つの意味を持ち合わせています。一つは光を与えること、照らし出すこと。もう一つは出産、 誕生です。 
 つまり、スペイン語で、生まれることは光を与えることなのです。
 これが表すのは、「Alumbramiento」という言葉の意味と映画本来の行為が一致するということです。映画の行為、つまり映画はこの世界に存在する全てのものを照らし出し、私たちの目の前で繰り返し「命」を与えてくれるの です。
                                ビクトル・エリセ
 
 映画をきっかけに出会ったこの言葉、いつまでも心に残ります。

評価:★★★★☆

2008/01/15

「チューブ・テイルズ」

 2000年公開のイギリス映画。LONDONの地下鉄(tube)がテーマの9話オムニバス。
 私は96年の夏から99年の春まで約2年半ロンドンに住んでました。 帰国して1年以上たち、期待と懐かしさと共に高揚した気持ちで映画館に見に行ったのを思い出します。
 
 ロンドン版「ぴあ」といったような週刊雑誌「Time Out」で脚本を募集して、数千通以上の応募の中から9人の監督がそれぞれ選んだ脚本で構成。
 想像力豊かなお話からダーティーな話、詩のようにゆっくりと時間が流れる美しいお話・・・と、まさにおもちゃ箱を開けたみたいに、バラエティに富んでにぎやか!
 様々な地下鉄にまつわる9つの映画達・・ロンドン味がぎっしり濃縮されたストーリばかりなのです!

 笑ったり、きゅーっとなったり、ハラハラしたり、いろんな気持ちがやってきて、忙しいけど楽しい!!
 ちなみに、ユアン・マクレガーやジュード・ロウも監督として参加してます。

 東京版「チューブ・テイルズ」も、やってみたらいいんじゃないかな。

評価:★★★☆☆

「ダンサーインザダーク」

 2000年公開のデンマーク映画。これは好みが両極に分かれる映画ですよね。。 監督は「奇跡の海」と同じく、ラース・フォントリアー監督。
 人気シンガー・ビョークが主演をして、話題になりましたね。さらにカトリーヌ・ドヌーブが助演という贅沢さ。
 私は好きです。あまりに悲劇すぎて、納得いかん!と思うところもありましたが・・・。見終わった後の衝撃が強くて、映画館を出てもなかなか映画の世界から戻れなかったのを覚えています。
 
 主人公セルマの純粋無垢さに救われるのでしょうか。 悲しいばかりの映画ではなくて。自分の息子に対する無償の愛もそうですが、彼女が「愛する存在」は何も実在するものだけじゃなくて。
 セルマのように音楽という「それ」を確かに持っていて、そしてそのことをはっきり認識している人というのは、強いなと思いました。 
 
 この映画の極限の時のセルマの描き方が心に刺さりましたね。
そんな極限の時でさえも、だからこそなのか、大好きな「歌」とその想像の世界で必死に恐怖を紛らわしている姿・・・、忘れられません。
 
 しかし、この映画、結構酔います(笑)。
 空腹で見ていたら途中で気持ち悪くなって、我慢できず途中席をたち、うつろな顔で売店に駆け込んでしまいました!  
 たぶん、酔った人は私だけじゃないはず・・・。 

評価:★★★★☆

「セントラル・ステーション」

 監督はウォルター・サレス監督。ブラジル映画。
 ウォルター・サレス監督は、若かりし頃のチェ・ゲバラを描いた映画 「モーターサイクルダイアリーズ」の監督でもあります。  
 なかなか珍しい設定ですが、おばさん(毒舌、最初は性悪!)と少年が一緒に旅をするロードムービーです。 

 代筆行をしている主人公ドーラの所に母子がやって来て、消息不明の父にあてる手紙の代筆を頼むのです。彼女は代筆しても投函しないで捨ててるんですけどね。
 その直後に母親が車に引かれ、亡くなってしまう。そしてドーラはしぶしぶながら、少年ジョズエの面倒をみ、父親を探しに旅に出ることになるのです。
 
 物語が進むにつれ、この薄情だったドーラにどんどん人間味、優しさが出てきます。その変わっていくさまが、ごく自然。次第に表情がすごく柔らかくなっていくんです。
 なんとも言えない二人の間に生まれた温かい空気、、思わずこの旅が終わって欲しくないという想いにかられます。
  
 ドーラの手紙、詳しくはネタバレになるので書けませんが・・・・泣かされます。。。

評価:★★★★☆

「スモーク」

 95年に公開した米映画。日本でもファンの多い作家、ポール・オースターの作品が原作。彼が脚本も担当しました。

 スモーク、大変渋くて!いい映画ですね~。私の好きな俳優の一人、ハーベイ・カイテル主演。N.Y.、ブルックリンのとあるタバコ屋が舞台です。

さりげなく、ところどころに憎い位の素敵なエピソードがあり、もうその散りばめ方の上手さに酔いしれてしまいます。
 好きなシーンは、主人公オーギーが、同じ交差点で毎日同じ時間に10数年以上写真を撮り続けていると語るシーン。
 「同じ写真は1枚もない」といって誇らしげに話すシーンが大好き。
 
 そして、要所要所でつかれる「嘘」が何らかの効果を発揮したりして。この映画の中の「嘘」は、どれも思いやりがあって。憎めない嘘。
 

 最後の締めくくりで見せられるストーリーは、拍手したいほどの素晴らしき演出!
 おばあさんとオーギーが顔を寄せているあのショット、思わずこちらもニヤリとしてしまうほど、最高です!!

評価:★★★★☆


2008/01/14

「しあわせな孤独」

 スザンネ・ビエール監督のデンマークの映画。女性の監督というのがなんとなく頷ける作品です。

 主人公のセシリは愛する婚約者の彼との結婚を控えて幸せのさなかだった。物語は彼が目の前で交通事故にあい、全身不随になるという 悲劇で始まります。彼を車でひいてしまった女性の夫が、入院した先の医師という奇遇。
 主人公のセシリは事故後、婚約者の急変した態度や、受け入れ難い事実に、一人で立ち向かう事ができなくなってしまう。彼女はやがてその担当医師と、恋愛関係になってしまいます。

 監督は「突然悲劇がやってきてしまったときの人間の弱さを描きたかった」と言います。 
 主人公、婚約者、医師、婚約者をひいてしまった医師の妻、描かれているその4人それぞれの「心境」が痛いほど理解できてしまいます。そうするか、は別として。

 それほど、綺麗事ではなく、リアルにそれぞれの人物の感情や行動が描かれています。誰しも映画を観ながら考えてしまうでしょう。いざ自分が主人公の立場になったら・・・、そんな事が突然起こり、恋人に頑なに自分を拒絶されても、自分自身を強く保っていられるかどうか・・・。

 終盤の婚約者が彼女にあてた言葉、彼女のとった行動、病院での彼と看護婦とのやりとり・・・涙、いっぱい流れました。

この映画、デンマークでは記録的に大ヒットし、8人に1人は観たというほどだそう。
特に女性には観てほしい映画。


 同時期に公開した「幸せになるためのイタリア語講座」 もいい映画でした。人と人の繋がりも、慎ましく悩みながら頑張ってる姿も、見ていて励みになります。

あとから、じわーっと体に効いてくるような、ビタミン剤のような映画でした。

評価:★★★☆☆

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「16歳の合衆国」

 米映画でマシュー・ライアン・ホーグ監督の商業映画デビュー作。ホーグ監督は28歳でこの映画の脚本、監督を務めた そう!!スバラシイ。
 主演はライアン・ゴズリング。ホーグ監督は少年院のような施設での2年間の教師の経験がきっかけでこの脚本を書いたそうです。
そこにいる少年達は 「モンスターの様な奴ら」ではなく、取り返しのつかない過ちをしてしまった、普通の子供達であったと。


 お話は16歳のリーランドが恋人だったベッキーの知的障害をもった弟をある日刺し殺してしまうところから始まります。彼はどうして殺したのか、その時の事は覚えていない。少年院で担任になった教師パールがリーランドに興味を持ち、作家を目指しているパールは彼を本の題材にしようと彼に話を聞いて いく・・・。

 
 この映画は少年の犯罪に的をしぼって描かれているのではなく、そこから波及する周囲の人々の感情や内面をとても繊細に描いています。リーランドは人一倍、周囲の「哀しみ」を感じ取ってしまい、それが辛くて何も感じないふりをしているとても繊細な少年なのです。
 
 映画の中でリーランドが語る言葉には静かながら鋭く突いてくる言葉がいくつもあります。
 
 人々の光と影、善と悪、強さと弱さ、愛と孤独。光を確認するための影。自分の悪や弱さを知っている者こその善や強さ。自分や相手の孤独を理解できるからこその愛。そういった相反する事柄は実はとても結びつきが強くて、片側を知れば知るほど、反するもう片側が深く実感させられてしまうんだろう、そんなことを考えさせられました。

 哀しみで溢れているけれど、だからこそ愛を感じる映画。 静かに、しかし気持ちの奥にぐっと近づいてくる繊細な映画です。ぜひ観てほしい映画の一つです。 

評価:★★★★☆



「さすらいの二人」

 イタリアの巨匠ミケランジェロ・アントニオーニ監督の作品で1976年に公開。イタリア・フランス・スペインの合作です。ジャック・ニコルソン主演。
 ジャック・ニコルソンがかなり若い!(当たり前ですが)。

 イギリスのジャーナリストであ る、主人公ディビッドが取材で訪れていた北アフリカのホテルである男性と知り合う。
 ある日その男性が部屋で突然死をしているのを見つけたディビッドは、自分と彼が顔が似ている事から「自分」を捨て、その男性に成り変って生きていく事にするのです。その彼の関わっている仕事により、ある種逃避行の様な旅に なっていくロードムービーなのですが、バルセロナである少女と出会い、さらに2人での逃避行の旅となっていきます。
 身の危険を感じながら、亡くなったとは信じていない妻からの逃亡、表向きはそうなのですが、結局は本当の自分からは逃れられない現実からの逃亡なのです。

 この映画、音楽をほとんど使っていません。どこまでも続く砂漠のシーンやホテルにいるシーン、かえってその慣れない静けさが新鮮でした。そして少女役のマリア・シュナイダーの不思議な魅力がとっても活きてる!

 カメラワークもこの映画の魅力のひとつで、最後には7分間ノーカットの名シー ン。そして対照的な2つの短いセリフ。
 ラストの10数分は近頃の映画にはそうそうないもので、とても静かながら忘れがたい時間となりました。

静かで静かで余計な付け足しも、激しい感情の動きもない、セリフも少ない、潔い映画。よほどの自信がなければ作れないんじゃないか、と思いました。


 映画の中で、ディビッドが祈祷師にインタビューするシーンがあります。その祈祷師が言う言葉が非常に印象的。

  『君は私の答えから学ぶ事はできない、我々が語り合えるのは君が素直に物事を受け止め、私が君のその誠意を信じる時だ』と。


評価:★★★☆☆



2008/01/11

「ゴッドファーザー」

 フランシス・フォード・コッポラ監督の言わずと知れた名作。マーロン・ブランド、アル・パチーノ、ダイアン・キートン、Ⅱにはロバート・デニーロなどが出演。
シリーズはⅢで完結しています。私が見たのはまだⅠとⅡ。これは本当に「映画界のドン」ともいうべき貫禄の映画ですよね。
映画ファンを自称していながら、恥ずかしながら数年前まで見ておらず。見よう!と思っていたら、ラッキーにも劇場上映のタイミングを掴みました!!
(あの大スクリーンでこの映画が見れたのは本当にラッキーです)。

 あらすじの説明はあえて省略。
 もう何も語る必要がないような、全てが考えつくされているような“特別”な「安心感」「完璧さ」感じました。
 コルレオーネファミリーに生まれてきた宿命、背負うものの重みが、重すぎて、簡単には生きられない哀しみも葛藤もひしひしと感じました。
これほど「無言」が語る映画はそうそうないと思います。マフィアの抗争の話だけには留まらず、根底には家族への強過ぎるまでもの思いが描かれていて。
この映画は本当に凄いと言うか、「うなる」しかありません。重厚!濃厚!

  マーロン・ブランド、アル・パチーノ、ロバート・デニーロの演技も存在感もすごいですが、ダイアン・キートンの冷えた表情も忘れられません。特にIのラス トシーン。

この映画は一度では見足りませんよね。見ていない方はぜひ。見た方もぜひもう何度も! (ちなみにⅢは、「がっかりした」という意見をよく聞きます。)皆さんはどうでしょう?

評価:★★★★★

「ケス」

 監督はイギリスの巨匠、そして私の大好きな監督、ケン・ローチ監督の1960年代の作品です。約9年前に日本でも映画館で上映されました。
 私とケン・ローチ監督の出会いもその時のこの映画。この映画を見て、とても惹きつけられてしまい、数日後に別の作品も見に行ってしまいました。映画館でこの映画を見られたのはとてもラッキーでした。
 
 いつもケン・ローチ監督は労働者階級の人々など、けして裕福ではなく、生活や周囲の環境が苦しくても懸命に生きている、つつましく頑張っている人々を、 優しく、とても近い目線で照らし出してくれます。
 とてもチクチクと痛む、救いようのない悲しみを描いていても、その「現実」をしっかりと伝えようという心が伝わってくるからなのか、「人」そのものに対する愛情が伝わってくるからなのでしょうか。しっかり心に届いて、留まってしまうんです。

 物語の主人公はビリーという少年。粗暴な兄にいびられ、学校でも先生に怒鳴られ、友達からも馬鹿にされている日々。少しひねくれたこのビリーがある日ハヤブサの雛を見つけ、連れて帰ります。
 ハヤブサは人になつかないので、飼いならす事は無理に等しいのですが、ビリーはそのハヤブサとたわむれ、餌付する事に夢中になっていきます。
 その様はまるで実在する少年がそこにいて、それを見守っているような錯覚に陥るほど、リアルです。

 映画の中で、ビリーがクラスメートの前でケスを餌付けしていく過程を興奮しながら語るシーンが忘れ難く、大好きです。
そのケスとの時間はビリーにとって唯一自分を誇れる、素晴らしい時間なんですね。

ぜひ見て欲しい映画なので、ストーリーについて多くを語れませんが、 あらすじで楽しむという類の映画ではありません。観ているその時間というより、観終えた後からもじわじわと効いてくる映画。

イギリスでのこの映画の人気・評価はとても高く、余談ですがoasisのノエルも「悩んでいる時はいつ もこの映画(ケス)を思い出してしまう…」と言っているそうで。それほどこの映画が心に留まっているのでしょうね。


「グッドウィルハンティング」

 『エレファント』や『ラストデイズ』の監督でも知られるガス・ヴァン・サント監督の作品で1998年に公開した米映画。マット・デイモン、ロビン・ウィリアムズ主演。
当時、ほとんど知られていなかった新人のマット・デイモンとベン・アフレックが共同で脚本を書き、自分達の出演を条件に脚本を売り込んでいたそうです。
見事映画がヒットしただけではなく、アカデミー脚本賞までとってしまいました! それも納得するほど、素晴しい脚本。まさに夢の様なこの話、喜ぶ2人の姿を嬉しく見ていた事を思い出します。

 主人公、ウィル・ハンティングは警察にも何度もお世話になっている問題児。親友達と飲み歩き、世間に対しても反抗的。
しかし彼には数学の非凡な能力があ り、それを見出した教授から勉強とセラピーを受けるよう説得されます。全く心を開こうとしないウィルのセラピーを最終的に引き受けた教授の旧友でもある精神分析医ショーン。
衝突しあいながらも深い傷、悲しみを抱えている2人は徐々に心の距離を近づけていくのです。

 ウィルは自分の心の奥の奥の深い部分にある闇を認めるのが怖いが故に強がり、毒を吐き、なんとかバランスをとっているのでしょう。
 ウィルが少しずつ自分のトラウマを認め、そして弱さを周囲にも見せられるようになっていく姿がやっぱり観ていて嬉しくて感動的。
この作品は人の心の繊細な部分が丁寧に描かれてい て、かつ生きていく中での自分なりの「喜び」は何なのか?ウィルが変化していく様を見ながら答えを考えさせられます。

 ショーンが亡くなった最愛の妻の想い出を語るシーン、そして「僕には彼女がいる」という言葉、ウィルの心の奥に届いた、「君は悪くない」と繰り返す彼の言葉。
ズシリと響く言葉や表情がたくさん散りばめ られています。
他にもウィルと恋人や親友との会話、ショーンと教授の間の複雑な思いなど、ここでは書ききれないほど。。。

心の底からの想いを伝えれば、人の心の奥底に響くという事をしみじみ実感させてくれる「優しい」言葉達をぜひ皆さんも堪能して下さいね。

評価:★★★☆☆

「奇跡の海」

 あまりに心が痛んで衝撃的だった映画、「奇跡の海」。96年のデンマーク映画。
 「ダンサー・イン・ザ・ダーク」や「ドッグ・ヴィル」など話題作、問題作?を手掛けたラース・フォントリアー監督の作品でエミリー・ワトソン主演。
(ちなみにこの監督、大の飛行機嫌い。ゆえにアメリカに行ったことはないそうデス。もちろん日本にも来ないでしょうね・・。)

 この作品はカンヌ映画祭で審査員特別グランプリ、ヨーロッパ映画賞でも3部門を受賞しました。
 主演のエミリー・ワトソンはこの映画での迫真の演技が好評で、アカデミー賞の主演女優賞にもノミネート。

 純真無垢な主人公ベス、その婚約相手のヤンが事故で全身麻痺になってしまった。もうベスを抱く事ができないヤンは彼女に、
「他の男を自分と思って、抱かれ、その話を自分に聞かせろ」といいます。そうすれば彼女を抱けない苦痛、自分に降りかかったこの事実をせめて受け入れ、生きていける、と。

 彼を救う術と信じ、彼女はそこからどんどん壊れていきます。その姿は誰しも目をそむけたくなるほど。それが彼女の愛している証なのか、どうしてそこまでできるのか、と観ていて本当に辛くなってきました。
 ただ、観ないほうがいい?と聞かれると「No」と言うかもしれません。「痛み」に目を背けない事も時には必要なのかもしれないなと。
 
 元気がない時は見ないで下さい。ますます、元気がなくなります(笑)。
 
 この監督の作品はたいていそうですが、賛否両論の出る作品だと思います。
 主人公を、よくいじめますね。ホントに。
 この映画を見ると、先に書いたコラム「アメリ」の主演にエミリー・ワトソンでは違和感を感じる気持ち、わかってもらえると思います!

評価:★★★☆☆

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「季節の中で」

 原題は「Three Seasons」。99年末に公開された米映画で監督はトニーブイ。ハーヴェイ・カイテルが出演(主演ではないですが)・製作も担当しています。ベトナムが舞台になったオムニバス映画です。 
映画自体、あまり知られていないかと思いますが、実はこの映画、サンダンス映画祭で、審査員グランプリ、観客賞、撮影賞の3部門に輝いたんです。さらに、審査員グランプリと観客賞のダブル受賞というのは、サンダンス映画祭史上初だったそう。

 ストーリーは4つの話が平行して進んでいきます。
蓮摘みの娘がその蓮池を所有する主人(詩人でもあり、ハンセン病で周囲と関わりを排除してしまっている孤独な主人)との交流のお話。
シクロの運転手が娼婦に恋をした話。
雑貨売りをするストリートキッズの話。
ベトナム戦争の時に出会ったベトナム人女性との間に生まれていた我が娘を 探しに来た元米兵の話。

 「心が洗われるような映画」といった感じでしょうか。
それぞれのお話の主人公の純粋さに、おのおの関わる人達の悲しみや自己嫌悪感が、少しずつ浄化されていくよう。僅かながら希望の光を見出していくような・・・そんな清清しさや眩しさがそれぞれのストーリーに感じられます。

 そして、映像の美しさも、とても素晴らしいのです。心、癒されます。
 蓮摘みの娘の歌う歌、シクロ運転手のシクロレースでの表情、そして表紙にもなった赤い花々の咲く道での娼婦の表情・・・、どれも非常に印象的で鮮明に脳裏に残っています。

 好きな映画の中の一つ。

評価:★★★★☆


「彼女を見ればわかること」

 この映画、「低予算でインディペンデント映画なのに、有名女優達がこぞって出演を希望した作品」と公開当時話題になりました。
監督はロドリゴ・ガルシア。ノーベル文学賞を取ったガルシア=マルケスさんの息子だそうです。この映画がデ ビュー作で、脚本も書いています。デビュー作とは思えない!!
出演はキャメロン・ディアス、ホリー・ハンター、キャリスタ・フロックハートなどなど豪華豪華。 
 5人の女性の日常を切り取ったオムニバス。
心がチクチクしたり、主人公達の傍らに行って、話しをゆっくり聞いてあげたくなったり、切なくて切なくてたまらなくなったり。

他人にわかって欲しいけど、見せる事のない心の内側や孤独感を優しく照らしてあげている、こういう映画、個人的にとても好きです。

その女性の描き方の視線の近さ、繊細さは、男性の監督とは思えなかったほどです。「退屈」という人もいましたが、私は好きです。
いや、退屈とは思えませんよ、この映画は。

 5話のオムニバスだからこそか、まだまだ彼女達を放っておけないような気持ちのままでそれぞれのストーリーが終わり、余韻が残りました。
 「おやすみ、リリィ、おやすみ、クリスティーン」という話は「愛する」という感情がダイレクトに伝わってきて、何度見ても涙が出てしまいます。

 この映画のしばらくのち、同監督の作品で、「彼女の恋からわかること」という映画も公開されました。
こちらは10人の女性が一人ずつ自分達の恋の話をカ メラに向かって語るだけ。話す女性達は皆演技なのですが、まるでドキュメンタリーを見てるよう。話を聞いているだけですから、観客の想像力まかせです。
 だからこそか、匂い、温度、音、など、五感を刺激する映画でした。男性にも見て欲しい映画。「女心なら結構わかるぜ!」なんて思う人も、「女心、訳わかんねえ!」なんて人も。
 私は、「彼女を見ればわかること」の方が好きです。
女性には特にぜひ見てほしい映画!!

評価:★★★★☆

「アメリ」

 ジャン=ピエール・ジュネ監督作。アメリ、本当にヒットしましたね。独特の色彩とかファッション性での注目もおおいにプラスされ、その辺りで逆に抵抗感を感じ、「苦手なタイプだろうと期待しないで見た」けど「意外と良かった」という人(特に男性など)が結構多かったのでは?

 私にはあのおちゃめないたずらが醸し出すシュールな笑いがなんとも良く、爽快でした!

 映画館の近くには「あなたもアメリになれる!」というプリクラマシーンがあったらしく、あの「アメリボブ」の顔の部分に自分の顔がはまる・・と。
しかしこれは、一歩間違うと片桐はいりにもなりかねない・・ので危険です。

 主人公のアメリ役はオドレイ・トトゥに決まる前、エミリー・ワトソンに・・(『奇跡の海』などに主演。クレイジー気味な役柄が多い。)という話 が進んでいたとか。。

 あくまで想像上での比較ですが、オドレイ・トトゥで圧倒的に正解!!というのが見終わった後の率直な感想。
 あのなんともいえないキュー トさは、エミリー・ワトソンのイメージではちょっと想像ができないのです。まさにオドレイがはまり役!

 「心にひっかかる映画」という類ではないけれど、ほっと一息つかせてくれる映画、小さい子供と戯れた時のような現実をつかの間忘れさせてくれるような映画じゃないかと思ってます。

 まだ見ていない方がいたらぜひ。
 特に疲れた時、気が沈んで気分をちょっと明るくしたい時、効くのでは?


評価:★★★☆☆

2008/01/10

「オアシス」

 2004年に公開した韓国映画。監督はイ・チャンドン監督。
何人かの映画好きな友人に「これはぜひ観て欲しい」と薦められていた作品でした。 

 前科者で、家族にも何を考えてるかわからないと理解してもらえず、周囲に厄介者扱いされている青年と、青年が絡んだひき逃げ事件で亡くなった男性の娘、脳性麻痺の女性との愛の話。
 
 本当にこの映画は、壮絶で凄まじいです。
 脳性麻痺の娘を演じた、ムン・ソリの演技は、「演技」という事を本当に忘れさせるほどリアルで壮絶です。青年役のソル・ギョングの演技は、派手ではないですが同様に見事です。
 
 綺麗事で泣かせようとするような生易しい作品ではありません。この作品はその衝撃を言葉で説明するのは難しく、ぜひ観て、体験して欲しい映画です。

嫌悪感を抱くシーンもあります。
心が痛くなる映画かもしれません。

でもきっと記憶に刻まれる出会いになる重厚な映画だと思います。


評価:★★★

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「オール アバウト マイマザー」

 スペインの奇才とも言われるペドロ・アルモドバル監督の作品です。2000年に公開。この映 画でアカデミー外国語映画賞他、たくさんの映画賞を受賞しました。主演はセシリア・ロス。

 愛する息子には語らないでいた元夫、彼の父親の事。息子から「すべて話して」と言われ、ようやく話せる勇気が出た矢先、交通事故で息子が亡くなってし まう。
どうしようもない哀しみと喪失感から立ち直るべく、そして彼の父親を探すため、過去の自分とも向き合うためにも、 過去をたどる旅に出る。そして様々な女性達と出会う。  

 親子の愛もさることながら、人間愛、同性愛、一方通行の愛など、いろんな「愛」の 形がありました。 
アルモドバル監督というのは、
「支えられたい、愛されたい」というより、「支えたい、愛していたい」
人なんじゃないでしょうか?そんな気がしました。  

 けして強い女達ばかりじゃないけれど、どんな状況でも人のせいにすることなく、受けとめ、許しあっている。そこに観る人 が力づけられるんじゃないか、と。 

 (おまけ)主演のセシリア・ロスさん、同監督の後の作品「トーク・トゥ・ハー」にエキストラで出てる気がするのですが…。ボサノヴァのライブのシーンで観客として数秒。映画館で見ていて「あっ」と驚き。
似ている人なのか?未だ真偽のほどは確認できていませんが。


2008/01/09

「イル・ポスティーノ」

 ゆるやかに静かな時間の流れる映画「イル・ポスティーノ」。

 イタリアのとある島にやってきた著名な詩人、その詩人の元に郵便を配達する事になった青年は、「詩」、「言葉」、「隠喩」についてを教わるうちに、「詩」に夢中になっていきます。

そして想いを寄せる相手へ送る詩を教わりながら、心を通わせていくのです。 

 詩人が島を去った後、主人公マリオの人生に確実に残していったもの、その感情がとても尊く思えます。


ただただ穏やかできれいな島と素朴な人々。
だからこそ生きてくのに必要な事って、結構シンプルじゃないかと思わされました。 そして、「言葉」の持つ大きな力。伝えることの大きな意味。


 詩人・パブロ役のフィリップ・ノワレの演技は言わずもがな、素晴らしいです。
※主人公の青年を演じた
マッシモ・トロイージはこの映画の撮影を終えたわずか12時間後、病気で亡くなってしまい、この作品が遺作となってしまいました。

 随分前、ローマに住んでいる友達が「「イルポスティーノ」の舞台になった島に旅行で来ている」と書かれたポストカードを送ってくれたことがありました。主人公マリオの後ろ姿を映した、モノクロ写真のポストカード。 
この映画を思い出す時、彼女が送ってくれたそのカードと、なかなか会えない親愛なるその友の存在も思い出すのです。